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「乳牛の移行期における飼養管理の重要性」
~あかばね動物クリニック 鈴木保宜 先生~

コラム

2021/3/12

はじめに
乳牛の移行期は、一般的に分娩前約3週間、分娩後約3週間の時期をさします。
この時期の管理はとても重要で、その良し悪しが牛群の健康、乳量、繁殖成績を決定付け、
ひいては農場の利益と発展に影響を及ぼすと言っても過言ではありません。
そこで、今回は移行期の飼養管理についてのポイントを解説していきます。

(1)分娩前の飼養管理
①飼料栄養とDMIについて
分娩後の健康と乳量のために、牛群へ給与する飼料設計やその栄養濃度調整、DMI(乾物摂取量)の維持はとても重要です。分娩直前のタンパクはMP(代謝タンパク質)として 1300g、リジン90g、メチオニン30gを満たすことが大抵の経産牛に必要である(French,2012.Dann,2013)と言われています。また、エネルギーに大きく影響する澱粉濃度については、10~16%が適当(Dann,2018)と言われており、適切な濃度での栄養管理が望まれます。
DMIについても、以下のことが言われており、乳牛の健康維持のためには適切な管理が求められます。

DMIが重要視される理由は、DMIが不足すると前述したタンパク質、アミノ酸の要求量を満たすことができず、増加しすぎると超過してしまいます。加えて、澱粉濃度も意味を成さなくなってしまうからです。子宮炎は皆さんが考えるより意外に多く、その炎症は分娩後のケトージスの発生につながっています。
DMIが高いと良いのではないか?と思う方もいるかもしれません。しかし、飼料の栄養濃度が高すぎる場合、DMIが高いことで内臓脂肪の蓄積につながり、分娩後NEFAを上昇させてしまいます。NEFAの代謝から発生する活性酸素による炎症(代謝性炎症)で亜急性肝炎になり、脂質代謝を阻害してケトージスや第四胃変位を引き起こすリスクがあります。

②潜在性乳熱について
移行期の重要な病気に潜在性乳熱があります。分娩前の栄養管理で予防できるポイントは、分娩後のCa代謝を促進するMg(マグネシウム)です。Mgは0.45~0.55%DMが適当でしょう。さらに潜在性乳熱を減らしたい場合、マイルドDCADに挑戦してみましょう。低K粗飼料と塩酸を含んだ低DCAD製剤添加でDCADを0±10meq/100gに調整してください。

(2)分娩後の飼養管理
分娩後にDMIが上がらないことには移行期の成功はあり得ません。そのためには分娩後において、分娩前にも取り組んだ潜在性乳熱、子宮炎、潜在性ケトージス(代謝性炎症)を抑え込むことが重要です。以下に対策を示します。

また、分娩後では亜急性ルーメンアシドーシス(SARA)への注意も必要です。SARAにより消化障害が起きると、エンドトキシン(LPS)が消化管内で吸収され、代謝性炎症と同じように肝臓の脂質代謝に影響を及ぼして潜在性ケトージスを引き起こします。SARAの予防には、高泌乳期よりaNDFを2~3%多くすることと澱粉濃度を低めにすることが重要です。加えて、カシューナッツ殻液の給与によりルーメンpHの安定化をサポートすることも有効です。フレッシュ期のデンプン濃度には様々な意見(乾乳後期16%以下ならフレッシュ期は18~23%、Dann,2018)があります。高泌乳牛に対しては、TMRに乾草飽食給与(2kg程度になる)すると牛が調節してくれ、意外なほどうまくいきます。

(3)飼養管理の使い分け
『乳脂肪4.0以上、乳タンパク3.5以上、無脂固形9.0以上で病気もなく繁殖も良好だけれども、乳量が出ない』と悩む酪農家が『もっと薄い乳成分でもいいので乳量が出てほしい』という希望を訴えることを見かけます。このようなケースの原因は、乾乳期間が短かったり、乾乳期の栄養濃度が低いために分娩前にたんぱくリザーブ(貯蓄)を失っていたり(Bell,2000)、乳腺細胞の発達が少なかったり(Norgard,2006)していることが考えられます(図1)。
一方で、『乳量は出る牛もいるけどケトージスも乳熱も多く、繁殖も遅れて困っている』と相談を受けるケースもあります。この場合は、乾乳後期の栄養濃度が理想的で分娩後乳量が出てしまい、エネルギー給与が追いつかないことが考えられます。そこで、分娩後の飼料栄養濃度に気を付けながらDMIを維持し、乳牛のストレスを軽減する飼養管理が求められます。各農場の飼養環境にあわせた飼料栄養濃度の選択が移行期管理の重要なところです。

★図1の解説
①分娩~60日までの乳量
・分娩前後のDMIと乾乳期間からのたんぱくリザーブ(貯蓄)量に依存
  ⇒乾乳期の飼養管理が重要(乾乳期間、飼料の栄養濃度)
②60日以降の乳量
· 分娩前後の乳腺細胞の発達具合(赤い曲線)に依存
· 乳腺細胞の発達は分娩後21日がピークで、分娩前16日間に80%、分娩後から21日までに20%が形成される。
⇒60日以降の乳量は分娩前後の乳腺細胞発達レベル(特に乾乳後期の発達具合)で決まる
(乳腺細胞の発達には、経産牛1日MP 1300g、リジン90g、メチオニン30gを満たすことが重要)

【プロフィール】
鈴木保宣先生(すずきやすのぶ)
昭和30年生まれ、愛知県出身。
昭和53年北海道大学獣医学部卒業後、
同年赤羽根町農業協同組合勤務。
1992年に有限会社あかばね動物
クリニックを設立。酪農専門の獣医師
として、多くの農場の診療および管理
技術アドバイザーの仕事に従事される
ほか、全国の講演会や酪農雑誌への
寄稿など幅広くご活躍。

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