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暑熱ストレスとその対策の重要性

コラム

2021/4/26

はじめに
皆さん、毎年やってくる暑熱ストレスは、乳牛にとって莫大な損害を与えていることに気付いていますでしょうか?
具体的には、乳量低下、増体停滞、ボディコンディションの低下、急性の健康問題、ルーメンアシドーシス、妊娠率の大幅な低下、流産の発生率の上昇、死亡率の上昇などすべて合わせると大損失!! です。これらは後述する腸の健全性が損なわれていることが重要な問題となっています。これから暑熱ストレスの影響からその対策まで解説していきます。

(1)暑熱ストレスで何が起こるか?
ヒトも牛も、摂取した食べ物(餌)を、酸素を使ってエネルギーに変えて活動しています。
その場所は、各細胞内にあるミトコンドリアの中です。酸素を使うと酸素の数%は活性酸素になると言われており、この活性酸素は細胞を傷つけます。これが酸化ストレスです。暑熱ストレスで体温が上昇すると、ミトコンドリアの中での活性酸素発生量が増加します(図1)。

それゆえ、暑熱ストレスは酸化ストレスといわれています。
さらに、暑熱期の乳牛は、蓄積した熱を放散しようと、体表の血管を太くし血流量を増します。
その結果、腸に回る血液量は減少し、腸は酸素不足に陥ります。酸化ストレスと酸素不足のため、腸管表皮細胞は障害を受け、細胞間の接着(タイトジャンクション)が緩くなり、隙間が生じます。そのため、健康な腸ならそれほど吸収しなかったエンドトキシン(LPS=Lipopolysaccharide)の吸収量が増します(図2)。この状態を腸漏れ症候群(リーキーガット)と呼びます。

暑熱期に著しく乾物摂取量が下がった状態では、ルーメンアシドーシスに陥っていたとしても、腸へ発酵しやすい炭水化物(糖・澱粉)が流入する量が多いとは思えません。ゆえに、大腸アシドーシスにはなりにくいと考えられます。暑熱期のリーキーガットはルーメンアシドーシスによる消化障害が原因というよりは酸化ストレスと腸への酸素不足が原因と考えられます。

(2)吸収されたLPSが与える影響
吸収されたLPSは免疫系を活性化し、炎症物質の生産を促進します。
肝臓を含むいろいろな細胞に作用し全身性の炎症状態になります。発熱、乾物摂取量低下、筋力低下、肝機能障害を起こします。活性化された免疫系は糖を優先的に消費します。結果、糖を必要とする乳生産は著しく低下することになります。さらにLPSは直接LHパルスを抑制して卵巣活動を制止させ、非感染性の子宮内膜炎症を起こします(Herath,2009)。
長く続く暑熱ストレスの結果、免疫は疲弊して乳房炎は増え、体細胞は増加し、受胎率が低下するばかりか流産が起きることになります。そうして、LPSによる影響は暑熱ストレスを受けている限り長く続くことになります。

(3)暑熱ストレスへの対策
暑熱対策で最も大切なのは、乳牛へのストレスを軽減させる環境づくりです。
環境対策を実施したうえで、追加の具体策についていくつかご紹介します。

これらに加えて、生菌剤(枯草菌・乳酸菌等)の給与により免疫活性を上げ、クロストリジウム・パーフリンゲンス等の悪玉菌を抑制することにより、腸管の健康維持、ひいてはリーキーガット時のダメージを軽減できると考えます。農場毎にあった対策を実践して今年の暑熱期を乗り切りましょう。次回は秋口の生産性維持のポイントについてお話していきます。

【プロフィール】
鈴木保宣先生(すずきやすのぶ)
昭和30年生まれ、愛知県出身。
昭和53年北海道大学獣医学部卒業後、
同年赤羽根町農業協同組合勤務。
1992年に有限会社あかばね動物
クリニックを設立。酪農専門の獣医師
として、多くの農場の診療および管理
技術アドバイザーの仕事に従事される
ほか、全国の講演会や酪農雑誌への
寄稿など幅広くご活躍。

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