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秋口の乳牛にせまりくる危険

コラム

2021/4/26

はじめに
乳牛にとって夏の暑熱ストレスにさらされた後、さらなる危険が待っています。秋風は意外なほど急激にやってきて、気温はあっさりと低下し、驚くほど低下していた乾物摂取量(DMI)は急激に回復します。この時期には『食べた割に乳量が増えないな』と感じる酪農家は多いと思います。そればかりか、『どこか不調な牛が増えたな』、『乳房炎が増えたな』、『淘汰牛が増えたな』などを経験していると思います。秋口の牛に一体何が起きているのでしょうか?今回は、その原因とその対策について見ていきましょう。

(1)ルーメンアシドーシスと大腸アシドーシス
暑熱期は、以下の要因によってルーメンアシドーシスになりやすいと言われています。

乳脂肪の低下など確かにその傾向は否定できませんが、今日では多くの人がそれなりの対応をして、激しいルーメンアシドーシスを見かけることは稀です。また、下痢を起こすなど腸に障害を起こすほど酷くはありません。その理由として考えられるのはDMIの激しい低下です。日本の中でも暑さの厳しい西南暖地地方ではDMIは8割ほどまで低下し、乳量は7割程度まで低下することは珍しくありません。DMIの激しい低下により、腸へ流れ込む不消化の発酵しやすい炭水化物(特にデンプンや糖)はそれほど多くはないと考えられます。
ところが、秋が訪れ急に涼しい日が続くようになるとDMIは急激に増加します。それまで小さいDMIにより発酵酸の吸収力が低下しているところへルーメンでの発酵酸が激しく生成され、吸収になれていないルーメンの中の発酵酸は増加し、厳しいルーメンアシドーシスの危険にさらされます。さらに、急激なDMIの増加は通過速度を上昇させ、不消化の発酵しやすい炭水化物は腸へ流入し、腸内で発酵するため大腸アシドーシスを起こします。消化管バリアを損傷し、血中LPSを増加させることになります。夏の酸化ストレスとは異なる原因の腸漏れ症候群(リーキーガット)の発生です。吸収されたLPSは全身性の炎症を起こします。こうして、DMIの低下、乳生産の低下、免疫の低下による乳房炎の発生の増加、淘汰牛の増加など秋に多く見られる不調が始まります(図1)。

秋口の不調は急激なDMIの上昇に消化が追いつけないために発生する消化障害です。
この時よく見られるのは出血性腸症候群(Hemorrhagic Bowel Syndrome:HBS)です。細菌に利用されやすい炭水化物の流入によって、腸に常在する悪玉菌の1つであるC. perfringensの異常増殖が起こり,出血性毒素を産生するのでHBSの発症に至ることになります。HBSの治癒率は低く、発症すると淘汰や死亡につながります(写真1)。

(2)消化障害への対策
急激なDMIの上昇に消化が追いつけないために発生する消化障害にはどうしたらよいでしょうか?
①飼料設計の見直し
TMRで給与している場合は、夏に給与していた濃度のままのTMR を増給して与えてはいけません。簡単な方法としてDMIが増加した分、粗飼料を増やすようにしてください。1から2週間様子を見たうえで粗飼料割合を徐々に戻してください。分離給与の場合も、DMIの増加分は濃厚飼料を増やさないで粗飼料を増やしてください。あとはTMRの場合と同じように濃厚飼料を増やして下さい。
②添加剤の有効活用
LPSの吸着と腸の保護にゼオライトが有効です。DMIが落ち着く2週間ぐらいは少し多めの1日200g程度を給与すると、大腸アシドーシスやHBSの軽減になると思います。また、C.perfringensの異常増殖を抑えるために生菌剤(枯草菌や乳酸菌)を給与や、ルーメンアシドーシスの対策として重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、カシューナッツ殻液製剤を添加することも有効です。
皆さん、暑熱対策だけでなく、そのあとにくる秋口の対策も重要であることをご理解いただけたでしょうか?農場毎にあった飼養管理の参考になれば嬉しいです。今年の秋口を上手に乗り切りましょう!

【プロフィール】
鈴木保宣先生(すずきやすのぶ)
昭和30年生まれ、愛知県出身。
昭和53年北海道大学獣医学部卒業後、
同年赤羽根町農業協同組合勤務。
1992年に有限会社あかばね動物
クリニックを設立。酪農専門の獣医師
として、多くの農場の診療および管理
技術アドバイザーの仕事に従事される
ほか、全国の講演会や酪農雑誌への
寄稿など幅広くご活躍。

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