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畜産が気候変動の未来を変える?
地球温暖化のいまとこれから

環境への取組

2022/11/7

地球全体にさまざまな変化をもたらす気候変動。近年増加し続ける豪雨や猛暑日をきっかけに、気候変動を意識するようになった人も増えてきたのではないでしょうか。気候変動をもたらす地球温暖化の原因とされるのが、温室効果ガスです。
石炭や石油などの化石燃料由来の二酸化炭素が最も多い割合(※1)を占めますが、実は、食事や畜産も気候変動と大きな関係があります。そこで私たちは、食に由来する温室効果ガスの排出量を減らすことを意識したライフスタイルを広めるため、「Climatarian.jp」というWebメディアを立ち上げました。
私たちのメディアの名前にもなっている「クライマタリアン」は、気候を意味する「climate」と人を意味する「tarian」の合成語です。2015年、アメリカの大手紙The New York Timesに取り上げられたことが始まりとされます。私たちの食事は、実際にどれだけ気候変動に影響を与えているのでしょうか。また、畜産はどの程度、地球温暖化と関係があるのでしょうか。今後4回にわたって、気候変動と畜産のいまと未来を考えていきます。今回は、食と気候変動のいまについて、気候変動の全体像と食事や畜産が気候変動に与えている影響について解説します。

気候変動と食

産業革命以降、地球は温暖化を続けています。世界の年平均気温は産業革命前に比べて約1.09℃上昇しました(※2)。気温が上昇すると気候のパターンが変化します。結果として、猛暑日や熱波の増加、大雨、干ばつの増加などさまざまな問題が起き始めています(※3)。これらの気温上昇や気象パターンの長期的な変化を総じて「気候変動」と呼びます。
では、地球温暖化はなぜ起きるのでしょうか。2021年に発表されたIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)による報告書では、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」(※4)と、地球温暖化の原因が人間の活動であることが断定されました。
人間による活動が活発になったことで、産業を中心に二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスが大量に排出されるようになりました。その結果、気温は上昇の一途をたどっています。世界の温室効果ガスの排出源は、農業・林業に由来するものが22%であると報告されています(※5)。運輸に由来する温室効果ガスよりも多い値です。

畜産と温室効果ガスの関係

食に関わる温室効果ガスの排出量の中でも、特に多いのが畜産によるものです。畜産のサプライチェーンから排出されている温室効果ガスはCO2換算で7.1ギガトン(71億トン)であり、世界の温室効果ガス排出量の14.5%に相当します(※6)。牛などの反すう動物は、消化の過程でメタンガスを発生させるため、げっぷやおなら、糞尿にメタンガスが含まれます。メタンガスとは、二酸化炭素に次いで地球温暖化に及ぼす影響が大きい温室効果ガスで、地球温暖化への影響は同じ量の二酸化炭素と比べ28倍に上ります。
牛による排出量は畜産全体の3分の2を占めます。他の反すう動物と比べて体が大きいためで、1頭当たりメタンガスを毎日約250〜800L(※7)ほど排出しています。そのため、肉を避け菜食を中心にする生活は、温室効果ガスを削減する選択肢の一つとされています。実際に、日本人が現在の食のスタイルから完全に菜食へと切り替えた場合、1人につき年間当たり300㎏以上の二酸化炭素を削減できるといわれています。これは、再生可能エネルギーの導入や、燃費の良い自動車、効率の高い家電製品の導入と同等の効果があります(※8)。

畜産とサステナビリティ

菜食に切り替える、つまり、肉を食べることを完全にやめれば、確かに二酸化炭素の排出量を減らすことにつながります。しかし、完全に肉食をやめることは果たして可能なのでしょうか。
畜産業は日本でも主要な産業の一つです。日本での肉用牛の飼養頭数は261万4000頭であり、国内での肉類の生産量は1年間で348万4000トンです(※9)。また、日本在来種の牛をベースにつくられた「和牛」は高級牛肉の代表格として、海外でも高い評価を受けています。
日本国内で肉食を直ちにやめることは、畜産業の過剰な縮小、ひいては畜産業界の人々の生活を脅かすことに繋がりかねません。さらに、私たちの暮らしから肉をなくした生活をイメージしてみましょう。普段、肉を食べない日はないという人も多いはずです。今あるライフスタイルを急に変えることは、簡単ではありません。そこで、私たちは肉を食べないのではなく、環境への影響を考えたライフスタイルの必要性にたどり着きました。例えば、週に1日は菜食にする。環境問題に配慮した飼育環境で育った牛肉を選ぶなど、牛や畜産を悪いものとするのではなく、「いかに共生していくのか」ということを考えていく必要があります。

世界で議論されているこれからの畜産

地球温暖化が人間の活動によって起きていることは疑う余地がなく、畜産が地球温暖化に与えている影響は、無視できないほどの大きさになっています。現状をうけて、2021年にイギリスで開催された気候変動に関する国際会議「COP26」では、世界のメタンの排出量を2030年までに2020年比30%削減することを目指す「グローバル・メタン・プレッジ」が正式に発足しました(※10)。
グローバル・メタン・プレッジは米欧が主導し、日本を含め100を超える国と地域が参加しています。2022年11月にエジプトで開催されるCOP27でも、メタン削減に向けた技術変革の支援方法の枠組みなどに、焦点があてられる予定です(※11)。とはいえ、日本でも世界でも、人々の生活に深く根付いた畜産を完全になくすことは難しいでしょう。
人と畜産業、そして地球とが共生していく方法を探ることがいま求められています。そこで注目されているのが、牛を減らすのではなく「牛のえさ」を変えることで牛由来のメタンを減らす方法です。次回は、ヨーロッパを中心に、世界で加速する牛由来のメタン削減策をご紹介します。

記事協力:Climatarian.jp(クライマタリアン.jp)
食と気候変動の関係についての情報発信や、地球にやさしい食材の選びかたなどの情報をお届けする、おいしいと地球をつなぐウェブメディアです。

【出典】
※1 IPCC AR6 WG3 SPM FIGURE SPM.1
※2 IPCC AR6 WG1 SPM A.1.2
※3 IPCC AR6 WG1 SPM A.3
※4 IPCC AR6 WG1 SPM A.1
※5 IPCC AR6 WG3 SPM B.2.1
※6 FAO Livestock solutions for climate change
※7 広島大学「【研究成果】新たな牛のメタン排出量算出式を開発しマニュアル化 ~牛のゲップ由来メタン削減技術開発の加速化に期待~」
※8 IGES「1.5°Cライフスタイル ― 脱炭素型の暮らしを実現する選択肢 ― 日本語要約版」
※9 農林水産省「農林水産統計」
※10 環境省「メタンの全大気平均濃度の2021年の年増加量が2011年以降で最大になりました~温室効果ガス観測技術衛星GOSAT(「いぶき」)の観測データより~」
※11 The Official Egypt COP27「Decarbonization Day」 


【参照サイト】
国連広報センター
「気候変動の影響」

国立環境研究所
「より精緻な科学的知見を提供−IPCC第1作業部会第6次評価報告書概要− 地球環境研究センターニュース」

気象庁
「IPCC第6次評価報告書第1作業部会報告書 政策決定者向け要約 暫定訳」

独立行政法人農畜産業振興機構
「持続可能な畜産経営に向けて~環境負荷の軽減および技術開発により地球にやさしい経営を推進~」

Europian Commission
「Methane emissions」

JETRO
「米主催のエネルギー・気候主要経済国フォーラム開催、COP27に向け協調呼び掛け」

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