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気候危機に立ち向かうZ世代が選択する、おいしくて地球にやさしい等身大の気候アクション

環境への取組

2023/4/10

地球全体にさまざまな変化をもたらす気候変動。地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの全排出量のうち、実は、食糧の生産を由来とする温室効果ガスの排出は全体の3分の1ともされます(※1)。
気候変動に課題意識を持つ私たちQuisineは、地球環境のために、食由来の温室効果ガスの排出量を減らすよう配慮した食生活を選択するライフスタイル「クライマタリアン」の考え方を広めるため、「Climatarian.jp」というWebメディアを運営しています。
地球環境のために何かしようという意識は、さまざまな年齢層で高まりを見せています。 そのなかでも、気候変動時代において特に鍵となるのは、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんに代表される「Z世代」と呼ばれる層の動向です。
1990年代後半から2010年代のはじめに生まれた世代、「Z世代」は一般に気候変動問題に関心が高い世代だと言われています(※2)。SNSを軸とした強い発信力を持ち、これから時代が進むにつれ、次期リーダーとして社会や経済に対する影響力はますます強くなっていくでしょう。
Z世代は気候変動問題をどう捉え、何を求め、どのような行動をしているのでしょうか。
気候変動と畜産のいまと未来を考える連載の第3回。今回は、Z世代が気候危機をどのように乗り越えようとしているかについて、Z世代の一人である著者の視点を交えながら解説します。また、Z世代から支持を集める食からの気候変動対策のムーブメント「クライマタリアン」についても、その存在意義を探ります。

Z世代は気候変動をどのように捉えているか

Z世代はなぜ、気候変動に対する意識が他の世代と比べて高いと言われているのでしょうか。
アメリカで行われた世代をまたぐ意識調査によると(※3)、Z世代の回答者の77%が、「気候変動は重大な懸念事項の一つである」と答えています。これは、他の世代よりも高い割合であり、Z世代は具体的行動の必要性をより強く感じていることがわかります。また、Z世代の回答者の32%が、過去1年間に、気候変動に対して個人的に行動を起こしたと報告されています。
さらに、日本にてチューリッヒ保険会社が行った複数世代間での意識調査(※4)では、Z世代の約半数にあたる49.4%が「脱炭素に向けて意識的な取り組みをしている」と回答しています。
これらの結果の理由は、Z世代が地球温暖化やリサイクルなど環境問題の教育を早期から受けて育っていることが第一に挙げられます(※5)。加えて、近年増加している自然災害をはじめとする気候問題を生活の中で感じる機会が多いこともその理由として考えられています。

気候アクションとしてのクライマタリアン

Z世代を巻き込んださまざまなムーブメントが世界各地で広がりを見せるなかで、「食」を通じたアクションが支持を集めています。それがクライマタリアンというライフスタイルです。
クライマタリアンとは、地球環境のために、食由来の温室効果ガスの排出量を減らすよう配慮した食生活を選択する人のことです。「気候」を意味する「climate」と「ベジタリアン」など食習慣を意味する言葉の合成語で、英語では「climatarian」と書きます。
食材の一つ一つが生産されてから私たちの元に届くまでには、温室効果ガスが排出されます。温室効果ガスの排出量がなるべく少ない食品やメニューを選んで食べるのが、クライマタリアンの食べ方です。
お肉を食べず、基本的に野菜のみを食べるヴィーガンやベジタリアンの食事も、温室効果ガスの排出抑制につながるという点では似ています。しかし、クライマタリアンの考え方では、お肉を食べないことを信念とはしていません。お肉を食べることを絶対に避けて代替食品を探し回るのではなく、手元の選択肢の中から、おいしく無理なく、より温室効果ガスの排出が少ない食べ物を選択することを重視します。
例えば、レストランでのメニューの中に牛・豚・鶏の選択肢があった場合、相対的に環境負荷の小さい順に鶏・豚・牛の順に料理を選ぶ機会を増やすのが、クライマタリアンです。クライマタリアンとは、「環境のために」と食べるものを厳しく制限し、我慢する生き方ではありません。食べる食材・食べない食材を自分なりに選択して、地球に優しい食事を実践してみようという取り組みなのです。

日本人の食とクライマタリアンの相性

世界では、気候変動や環境問題に配慮して、食生活を切り替える流れが起きています。
例えばドイツでは、ヴィーガンの人口が増加しています。米国農務省による報告によると、ドイツ国内のヴィーガンの人口は10年前には10万人程度だったところ、2022年には150万人にまで増加しました(※6)。肉の消費量は2011年には1人当たり年間約62キロだったのが、2021年には約55キロまでに減少しています。
またドイツ人の半数以上が、自分自身のことを、肉の消費量を減らし、基本は植物性食品を中心に食べる「フレキシタリアン」であると考えています。
それでは、日本ではどうでしょうか。2022年に行われたエシカル消費(*)に関する調査では、さまざまなエシカルな商品の中でも特に「食品」を「買ってみたい」と考える人の割合が高く、72.2%となっています。これは、日用品や家具、衣料品といった他の商品と比べても最も高くなっています(※7)。
しかし、植物由来原料を用いて肉料理などを再現した「プラントベースフード」は日本では認知がなかなか広がっていません。プラントベースフードは、欧米やオセアニアの一部の国では、菜食志向の人向けに、スーパーマーケットなどでも広めのコーナーが設けられて販売されています。しかし、日本のスーパーでは、プラントベース食品が占める割合は、それに比べるとまだまだ少数派です。
また、日本で行われたプラントベースフードに関する調査では、「おいしいかどうか」が最も大きな不安要素として挙げられており(※8)、味への不安感からなかなか購入へとつながっていないのが現状のようです。
日本で長い年月をかけて築いてきた食の文化を変えるのは、決して簡単なことではありません。たくさんの時間や気力が必要となります。しかし、気候変動はもはや時間の余裕のない状況を迎えており、今すぐにアクションが必要です。
だからこそ、クライマタリアンは日本人と相性が良いといえるかもしれません。クライマタリアンは食べるものを我慢するのではなく、食べ物が食卓に届くまでの環境負荷の低い食品を選ぶことを重視します。これまで慣れ親しんできた日本のおいしい食べ物を無理して手放す必要はないのです。
日本の食事の文化を根底から変えようとするのではなく、手元の選択肢から地球にやさしいものを選ぶ。クライマタリアンという生き方は、日本人にあった気候変動への取り組み方であるといえるのではないでしょうか。
*エシカル消費……消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮し、環境や人権などの課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うこと(※9)。

クライマタリアンについてのZ世代の声

「クライマタリアン」のライフスタイルについて、Z世代はどのように捉えているのでしょうか。
私自身、他のZ世代と同様に環境問題に対する危機感を持つ一人です。
以前、環境問題について学ぼうと北欧に留学していたとき、環境問題に対する意識から「完全に菜食に切り替えよう」と決意しました。授業やルームメイトとの会話を通じて、生活に身近なアクションの中では、菜食に切り替えるのが一番環境問題に対する効果が高いと知ったためです。
しかし、友人との付き合いや、食材の制限がある中で、全くお肉や乳製品を取らない生活を続けるのは思ったよりも大変でした。結局、1週間と続かずに挫折。そのあとしばらくは、お肉を食べる度に、挫折感と罪悪感を覚えるまでになってしまっていました。
完全菜食への切り替えに失敗し、かといってお肉を食べることには躊躇いを感じてもやもやとしていた頃、「クライマタリアン」の考え方に出会いました。無理なく、環境負荷の低い選択肢を選びながら食事を楽しむライフスタイル。これなら、私にもできるかもしれないと思いました。
今は、お肉を完全に控える以外にも、より地球にやさしくできる選択はあるのだと知り、罪悪感なく食事を楽しめています。レストランでメニューに並んだ肉料理の中から鶏肉料理を選ぶ時、「自分は地球によりやさしい選択をしているんだ」と思うことができ、納得感を持って心地よく食事を楽しむことができるようになりました。
「地球にやさしく、自分も心地よく」というのは、Z世代の友人たちと話しているとよく出てくる考え方です。
彼らの気候変動に対する個人での取り組みはというと、食事からのアプローチだけではなく、マイボトルを持ち歩いたり、ビーチクリーンをしてみたり。取り組みはさまざまですが、「サステナブルな選択をすると心地よい」「自分がうれしいから地球にもいいものを選んでいる」という声をたくさん聞きます。そして、誰もが自分の取り組みについて無理をしている様子はありません。
無理なく、でも自分も地球も心地よく感じられるようなアクションを起こしていきたいと考えているZ世代。その一人として、食事から無理なく気候変動問題の解決へとアプローチをする、クライマタリアンという生き方を選んでいます。

求められるのは、おいしくて地球にやさしい解決策

これからの社会を担うZ世代の消費行動を刺激する鍵は、「おいしくて地球にやさしい」にあります。
畜産業界でも、環境に対するさまざまなアクションが国内外で始まっています。特に、国内では、前回の記事でも紹介した「カシューナッツ殻液」をエサに用いる研究が代表的です。
カシューナッツ殻液には、メタンガスの原因となる菌に作用する効果があるという研究結果(※10)が報告されており、牛由来のメタンガスを抑制できるのではないかと期待が高まっています。このカシューナッツ殻液を用いて、畜産業によるメタンガスの排出削減技術に取り組むプロジェクトは2023年1月、熊本県にて始動(※11)しています。
「環境によい牛肉」という新しい選択肢が日本に増えることは、味にこだわりのある日本のクライマタリアンにとってベストなソリューションといえるかもしれません。Z世代をはじめとした多くの人々からも歓迎されるようになるでしょう。
カシューナッツ殻液を用いた畜産業によるメタンガスの排出削減技術を筆頭に、おいしくて地球にやさしいソリューションはじわりと増え始めています。そうした取り組みがより広がっていけばおいしいを我慢せずとも選べる選択肢が世の中に増え、重ねた選択のその先にある、明るい未来へつなげることができるでしょう。

記事協力:Climatarian.jp(クライマタリアン.jp)
Quisineが運営する、食と気候変動の関係についての情報発信や、地球にやさしい食材の選びかたなどの情報をお届けする、おいしいと地球をつなぐウェブメディアです。

【出典】
※1 UN News Food systems account for over one-third of global greenhouse gas emissions | UN News
※2 Dimock, M Defining generations: Where Millennials end and Generation Z begins | Pew Research Center
※3 Tyson, A., Kennedy, B., & Funk, C. Gen Z, Millennials Stand Out for Climate Change Activism, Social Media Engagement With Issue | Pew Research Center
※4 チューリッヒ保険会社 世代間における気候変動に関する意識調査
※5  サステナブル・ブランドジャパン ミレニアル世代とZ世代、社会・環境への関心高まる
※6 vegconomist Germany: Half of Consumers Now Flexitarian, Vegan Population Reaches 1.5M - vegconomist
※7 電通 電通、「エシカル消費 意識調査2022」を実施
※8 MyVoiceEnquete Library プラントベースフードに関するアンケート調査
※9 消費者庁 エシカル消費とは
※10 株式会社エス・ディー・エス バイオテック 畜産でのメタン削減の取り組み世界の先進事例は
※11 南阿蘇村・慶応大学 エシカルな畜産を通じ持続可能な地域発展を目指す 「南阿蘇村 草原再生・あか牛復興プロジェクト」が発足

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