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飼料価格高騰と気候変動

コラム

2023/10/3

飼料価格の高止まりが続いています。
背景には、ロシアによるウクライナ侵攻によってトウモロコシの価格が高騰していること、船賃の高騰、円安の影響などがありますが、ここに、異常気象や地球温暖化も影を落としています。
気候サミットが開催され注目も集まる”気候変動問題”と飼料価格の関係について、気象予報士の千種ゆり子が解説します。


高止まりを続ける飼料価格 その原因は

飼料価格高騰の短期的・直接的な要因は、トウモロコシ価格の高騰、船賃の上昇、為替の影響です。ロシアによるウクライナ侵攻によりトウモロコシの価格が高止まりしているうえ、エネルギー価格の上昇や円安もあり、3年前の価格水準と比較すると2倍近い状態となっています。
そんな中、もう1つの不安要因とみられているのが、異常気象や地球温暖化です。


トウモロコシの収量はすでに地球温暖化の影響を受けている

トウモロコシ栽培は「乾燥(干ばつ)」が大敵です。
アフリカやヨーロッパ中西部、東アジア、南アメリカの一部では、地球温暖化によって、すでに干ばつが増えているとされていますが(※1)、それに伴ってこの約30年で、トウモロコシの収量も変化しています。(※2)
上の図で赤色は温暖化により収量が低下した地域、緑色は温暖化により収量が増加した地域です。赤色の地域と緑色の地域が混在しており、地域によって影響が異なることがわかります。

※画像は農研機構農業環境研究部門提供


世界平均では、トウモロコシ収量は「減少」

さきほどの図では、地域によってトウモロコシの収量は増加していたり減少していたりすることが読み取れました。しかし世界平均でみると、トウモロコシの収量は、温暖化の影響で減少しています。(※2)

※画像は農研機構農業環境研究部門提供

上の図は、過去約30年(1981-2010年)における世界平均収量への温暖化影響を推定したものです。温暖化がなかったと仮定した場合に比べて、世界のトウモロコシの収量は、約4.1%減少したと推定されます。
気候変動の影響は遠い未来のことだと思ってしまいがちですが、すでに飼料価格にもジワリと影響を及ぼしているのです。


気温上昇が大きいほど、トウモロコシの収量は少なくなる

現在世界は、今世紀末の気温上昇について、パリ協定の中で「世界共通の長期目標として2℃目標の設定。 1.5℃に抑える努力を追求すること」に合意しています。(※3)
しかし、仮に気温上昇が1.8℃未満で抑えられたとしても、トウモロコシは世界平均での収量増加が抑制され、気温の上昇が大きいほど将来の収量増加が低くなることも分かりました。(※4)

今後の気温上昇が大きいほどトウモロコシの収量は更に減少すると予測される中で、人口の増加、それに伴う食肉需要の急増によって、トウモロコシに対する需要は高まり続けています。
2023年時点で世界人口は約80億人とされていますが、今後世界の人口は2100年には約104億人に達すると予測されます。(※5)


生産コストの適性反映にくわえ、飼料や生産性向上の工夫を

今後も飼料価格の上昇・高止まりが起こることが予想されますが、少しでも価格上昇の影響を減らすためには、さまざまな措置が必要です。

飼料コスト等を適正に価格に反映させていくことが重要ですが、世界的な価格変動の影響を受けにくい飼料を利用するという方法もあります。

カシューナッツ殻液を利用した機能性飼料は、熱帯地域周辺で栽培されるカシューナッツの殻から抽出されており、気温上昇による収穫増減の影響は受けにくく、トウモロコシや大豆のような大幅な価格変動もないと考えられます。
カシューナッツ殻液を使用した飼料は、乳牛の乳生産性や繁殖成績の向上、肉牛の体重増加などを通して、生産性を向上する効果があることがわかっています。


カシューナッツ殻液のメタン削減効果にも注目

カシューナッツ殻液は、気候変動を緩和する効果があります。

カシューナッツ殻液には、胃の中にいる消化を助ける菌は維持しつつ、メタンガスの原因となる菌に作用する効果がある、という研究結果が報告されています。(参考文献:牛由来メタンガス発生を約 36%*抑制することが見込まれる * 人工ルーメン試験におけるカシューナッツ殻液添加濃度 50ppm での抑制効果(Watanabe et al. 2010))

メタンガスは強い温室効果を持っているため、ウシのげっぷに含まれるメタンガスを減らすことで、温暖化の緩和に貢献していると考えられます。

先日、積極的な温暖化対策をとっていないことを理由に、ヨーロッパ企業から商談を断られたコメ農家のニュースが報道されていました(※6)。畜舎の屋根に太陽光パネルを設置する事例も出てきていますが、畜産業にも、温暖化対策の波が迫ってきている気がしてなりません。

【参考文献・引用文献】
※1 IPCC AR6 WG1 SPM (c)
※2 農研機構プレスリリース 2018年12月11日
※3 外務省 2020年以降の枠組み:パリ協定 
※4 農研機構「気候変動により将来の世界の穀物収量の伸びは鈍化する」2017年
※5 United Nations Department of Economic and Social Affairs Population Division Standard Projection 2022(中位推計)
※6 朝日新聞 コメも脱炭素 海外と商談失敗、雪下ろし不要の縦型太陽光パネル導入2022年11月29日

コラム執筆:千種ゆり子(気象予報士&防災士、Quisine発起人)

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