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気候変動と畜産における脱炭素経営

コラム

2024/6/12

過去のコラムでは「気候変動による飼料への影響や緩和方法」「気候変動に関する国際会議」について解説しました。今回のコラムでは「気候変動と脱炭素経営」について、気象予報士・脱炭素キャスターの千種ゆり子が解説します。


気候変動によるリスク

前々回の記事でも解説したように、アフリカやヨーロッパ中西部、東アジア、南アメリカの一部では、地球温暖化によって、すでに干ばつが増えているとされており(※1)、それに伴ってこの約30年で、トウモロコシの収量も変化しています(※2)。将来はさらにそれが悪化していく可能性もあり、気候変動は金融の不安定要因の1つと言えます。
また、一企業の目線でみても、気候変動の影響で激化した大雨によって家畜や牧場に被害が出てしまうと、それだけで牧場の経営が悪化するかもしれません。
このような観点から、適切な防災対策や気候変動対策を行っていることを示すことで、将来を見通した経営をしていることを示すことにもつながります。このような気候変動対策の視点を織り込んだ企業経営を「脱炭素経営」といい(※3)、近年欧州を中心にスタンダードになりつつあります。
前々回のコラムで、積極的な温暖化対策をとっていないことを理由に、ヨーロッパ企業から商談を断られたコメ農家のニュースを紹介しましたが、まさに気候変動対策の視点を織り込んで企業経営をしているか否かが、取引先選定の指標の1つとして機能している印象があります。


サプライチェーン排出量の削減

脱炭素経営の重要な軸として位置づけられているのが、二酸化炭素やメタンなど「温室効果ガス」排出量の算定と削減です。
近年は、自社だけでなくサプライチェーンも含めて、温室効果ガスを削減する目標を設定する上場企業も出てきています。業界内で影響力を有する企業が、サプライチェーンを含めた温室効果ガス削減の方針を打ち出すことで、業界全体に脱炭素経営の波が広がっています。
小売業界において先陣を切っているのが、イオンです。企業の気候変動対策を評価する国際的な環境非営利団体・CDPのスコアでAを獲得したイオンは、サプライチェーン全体のCO2排出量の多くを占める商品製造における排出量についても、プライベートブランドの主な製造委託先と協働した連携を進めています。(※4)
中小企業が脱炭素経営を行うことで、イオンのような気候変動対策に前向きな大企業の良きビジネスパートナーになれるかもしれません。脱炭素経営がビジネスチャンスや企業の生き残りにも繋がる可能性があります。

家畜排せつ物管理を通じた温室効果ガス削減

畜産における温室効果ガス削減には、さまざまな方法があります。
そのうちの1つに、「家畜排せつ物管理方法の変更」という方法があります。家畜の排せつ物を堆肥化する際の発酵過程でメタンや一酸化二窒素という温室効果ガスが発生します。
例えば、現状、堆積発酵をしている畜産農家が、より温室効果ガス排出量の少ない他の方法(強制発酵など)に管理方法を変更することで温室効果ガス削減につながります(※5)。
国の制度である「J-クレジット制度」(※6)を利用すると、その削減量をクレジット化することもできます。そのクレジットを市場で購入してもらえれば、畜産農家が収入を得ることができます。
J-クレジット制度とは、CO2等の排出削減量や、CO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度で、さまざまな方法論による削減・吸収がクレジットとして、金銭的にやり取りされる仕組みです。

農業・畜産における温室効果ガスの割合

しかしながら、農業・畜産における温室効果ガス排出量のうち、家畜排せつ物管理によるものは6.5%にすぎず、38.8%を家畜の反芻活動によるメタンガスが占めているというデータ(※7)があります。畜産からの温暖化対策を考える上では、牛などのゲップに含まれるメタンガスの削減方法の検討が欠かせません。
カシューナッツ殻液には、牛の第一胃(ルーメン)中にいる有用菌は維持しつつ、メタンガスの原因となる菌に作用する効果がある、という研究結果が報告されていて(※8)、カシューナッツ殻液を含んだルミナップを給餌するのも牛などのゲップに含まれるメタンガスを削減する方法の1つです。
現在世界各国は、2050年頃にかけて温室効果ガス排出量実質ゼロを目指して取組を進めており、脱炭素関連の市場は、将来にかけての成長が約束されている市場です。そういった意味でも、牛のゲップに含まれるメタンガスの対策の検討は今後さらに活発になっていくことが予想され、ルミナップの引き合いも強くなることが考えられます。

【参考文献・引用文献】
※1 IPCC AR6 WG1 SPM (c)
※2 農研機構プレスリリース 2018年12月11日
※3 環境省 グリーンバリューチェーンプラットフォーム 脱炭素経営とは
※4 イオン株式会社プレスリリース「CDP 気候変動対策『Aリスト』に選ばれました 」
※5 Jクレジット制度 方法論
※6 Jクレジット制度とは
※7 経済産業省 第3回グリーンイノベーション戦略推進会議WG 2020年9月8日 資料3-1 p2
※8 牛由来メタンガス発生を約 36%*抑制することが見込まれる * 人工ルーメン試験におけるカシューナッツ殻液添加濃度 50ppm での抑制効果(Watanabe et al. 2010)

コラム執筆:千種ゆり子(気象予報士&防災士、Quisine発起人)

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